日曜日, 9月 21, 2025

第一話 B-side 知らなかった君

 夕焼けの帰り道、俺は、あかりの横を歩いていた。

この通学路をふたりで歩くのは、もう何度目だろう。

けど、何度でも思う。隣にいると、心臓がうるさい。


「……なんで男子の制服って、あんなにかっこいいんだろうね」

唐突に、あかりがそんなことを言い出した。


「は? 急にどうした」

「いや、今日さ、廊下で他のクラスの男子がジャケット片手に歩いてたんだけど……なんかもう、映画の主人公みたいでさ」


そう言って笑うあかりを、俺は見ないふりで前を向いた。


「そんなに憧れるなら、お前が着てみたら?」


冗談混じりに返した。けど心のどこかで、「似合うかも」と思ってしまったのも本音だ。

それに——そんなの見たら、たぶん俺、また好きになっちまう。


***


数日後の土曜、あかりから「カフェ行かない?」とLINEがきた。

駅前で合流予定。いつもなら制服やスカート姿のあかりが、今日は違った。


フード付きの黒パーカーに、ゆるめのデニム。

ボーイッシュだけど、どこか整ってて、やけに目を引く。


「お前……誰だよ、それ」

口をついて出たのは驚きと、少しの戸惑い。


でもあかりは笑ってた。「ちょっと、着てみたくなって」って。

その笑顔が、まぶしかった。


「もしかして……本気でハマった?」

「……ちょっと、ね」


「似合ってるよ。お前が思うより、ずっと」


言ったあとで後悔しかけたけど、もう戻せなかった。

あかりは驚いたように瞬きをして、でも嬉しそうに目を細めた。


なんだよそれ、反則だろ。


俺が知ってたあかりは、スカートの裾を気にしながら歩くような女の子だった。

けど今目の前にいるのは、ちょっと違う“あかり”。


でもどっちの君も、俺は好きなんだ。

たぶん昔から、ずっと。


駅前のカフェまでの短い道のりが、今日は妙に長く感じた。

そしてその分、隣にいる“新しい君”を、ゆっくりと目に焼きつけた。