夕焼けの帰り道、俺は、あかりの横を歩いていた。
この通学路をふたりで歩くのは、もう何度目だろう。
けど、何度でも思う。隣にいると、心臓がうるさい。
「……なんで男子の制服って、あんなにかっこいいんだろうね」
唐突に、あかりがそんなことを言い出した。
「は? 急にどうした」
「いや、今日さ、廊下で他のクラスの男子がジャケット片手に歩いてたんだけど……なんかもう、映画の主人公みたいでさ」
そう言って笑うあかりを、俺は見ないふりで前を向いた。
「そんなに憧れるなら、お前が着てみたら?」
冗談混じりに返した。けど心のどこかで、「似合うかも」と思ってしまったのも本音だ。
それに——そんなの見たら、たぶん俺、また好きになっちまう。
***
数日後の土曜、あかりから「カフェ行かない?」とLINEがきた。
駅前で合流予定。いつもなら制服やスカート姿のあかりが、今日は違った。
フード付きの黒パーカーに、ゆるめのデニム。
ボーイッシュだけど、どこか整ってて、やけに目を引く。
「お前……誰だよ、それ」
口をついて出たのは驚きと、少しの戸惑い。
でもあかりは笑ってた。「ちょっと、着てみたくなって」って。
その笑顔が、まぶしかった。
「もしかして……本気でハマった?」
「……ちょっと、ね」
「似合ってるよ。お前が思うより、ずっと」
言ったあとで後悔しかけたけど、もう戻せなかった。
あかりは驚いたように瞬きをして、でも嬉しそうに目を細めた。
なんだよそれ、反則だろ。
俺が知ってたあかりは、スカートの裾を気にしながら歩くような女の子だった。
けど今目の前にいるのは、ちょっと違う“あかり”。
でもどっちの君も、俺は好きなんだ。
たぶん昔から、ずっと。
駅前のカフェまでの短い道のりが、今日は妙に長く感じた。
そしてその分、隣にいる“新しい君”を、ゆっくりと目に焼きつけた。