日曜日, 9月 14, 2025

第一話 スカートの外側

 夕焼けに染まる通学路。

制服のスカートを風に揺らしながら、あかりは隣を歩く拓海の横顔を見上げた。


「……なんで男子の制服って、あんなにかっこいいんだろうね」

「は? 急にどうした」

「いや、今日さ、廊下で他のクラスの男子がジャケット片手に歩いてたんだけど……なんかもう、映画の主人公みたいでさ」


拓海は呆れたような顔をして言った。「そんなに憧れるなら、お前が着てみたら?」


それは冗談だった。

だが、あかりの心には妙な引っかかりが残った。


***


その夜、あかりはクローゼットを開けた。

目についたのは兄のお下がりのブレザーとワイシャツ。

何気なく袖を通す。ボタンを留め、ネクタイを締めて鏡の前に立った瞬間——


「……え、なにこれ、めっちゃしっくりくるじゃん」


予想以上にしっくりきた自分の姿に、思わず笑いがこぼれる。

スカートではなくスラックス。胸元を隠すシャツのボタン。

どこか頼りなげだった自分が、少しだけ強くなれた気がした。


「あたし、男装……好きかも」


頬が熱くなる。けれどその気持ちは、恥ずかしさではなかった。


翌日、私服OKの休日をいいことに、男物のパーカーを羽織って出かけてみる。

街のショーウィンドウに映るのは、昨日までの自分とは少し違う「わたし」。


スマホが震えた。拓海からのメッセージ。


《駅前のカフェ、集合で》

《って、誰だよお前!?》


駅前に立っていたあかりを見て、拓海は目を丸くした。

「もしかして……本気でハマった?」

「……ちょっと、ね」


彼はしばらく無言だったが、ふいに笑った。

「似合ってるよ。お前が思うより、ずっと」


あかりの胸が、不思議と軽くなった気がした。

スカートの外側に、まだ知らない“わたし”がいる。


そしてそれを、見つけてくれた誰かがいる。

それだけで、世界が少しだけ広く見えた。