日曜日, 10月 05, 2025

第二話 B-side 君じゃないみたいで、でも君なんだ

 それから、あかりは変わった。

いや、正確には、少しずつ“変わっていった”。


最初は休日の私服だけだった。

ボーイッシュな服、ショート丈のジャケット、ローファー代わりのレースアップシューズ。

でも最近じゃ、放課後になると制服のリボンを外して、男子のネクタイを首に巻いていたりする。


「ちょっと借りてみたの」

そう言って、俺のネクタイを返してきた日もあった。


悪びれた様子は一切ない。

それどころか、鏡の前で軽くポーズなんかとって、満足そうにしてた。


——俺はと言えば、正直、戸惑ってた。


あかりのことは好きだ。でも、俺が好きだった“あかり”は、

長い髪をふわりと揺らして笑う、そういう女の子だった気がする。


だけど最近のあかりは、どこか芯が通った目をしてて、

服装のことも、「好きだから」と堂々と言うようになった。


その姿が、またカッコよくて。

だから俺は——もっと混乱する。


ある日、あかりの部屋に呼ばれた。

何か手伝ってほしいことがある、と言われて。


「ちょっと、見てほしくてさ」

そう言って、クローゼットの前に立ったあかりが現れたとき、俺は思わず言葉を失った。


そこにいたのは、完全に“男子”だった。


髪はタイトにまとめられ、シャツの上にベストを着て、スラックス。

だけど目の奥は、俺がずっと知ってる、あかりのままだった。


「どう……変じゃない?」


「……変じゃない。むしろ、すごいなって思う」

俺の声は、少し震えていた。


「私ね、やっとわかったの。男装って、ただ服を真似するだけじゃなくて……自分の中の“かっこよさ”を形にできるっていうか。なんか、気持ちがシャキッとするの」


その言葉に、俺は少し安心した。

あかりは、自分の「好き」をちゃんと見つけたんだって。


でも同時に、焦りもあった。

俺の好きな“あかり”は、どんどん新しい世界へ進んでいく。

その背中を、俺は追いかけられてるだろうか。


「……なぁ、あかり」

「ん?」

「どんな格好でもいいけどさ、お前は、お前なんだよな」


あかりは、ふっと笑ってうなずいた。

その笑顔が、昔と少しも変わっていなかった。