それから、あかりは変わった。
いや、正確には、少しずつ“変わっていった”。
最初は休日の私服だけだった。
ボーイッシュな服、ショート丈のジャケット、ローファー代わりのレースアップシューズ。
でも最近じゃ、放課後になると制服のリボンを外して、男子のネクタイを首に巻いていたりする。
「ちょっと借りてみたの」
そう言って、俺のネクタイを返してきた日もあった。
悪びれた様子は一切ない。
それどころか、鏡の前で軽くポーズなんかとって、満足そうにしてた。
——俺はと言えば、正直、戸惑ってた。
あかりのことは好きだ。でも、俺が好きだった“あかり”は、
長い髪をふわりと揺らして笑う、そういう女の子だった気がする。
だけど最近のあかりは、どこか芯が通った目をしてて、
服装のことも、「好きだから」と堂々と言うようになった。
その姿が、またカッコよくて。
だから俺は——もっと混乱する。
ある日、あかりの部屋に呼ばれた。
何か手伝ってほしいことがある、と言われて。
「ちょっと、見てほしくてさ」
そう言って、クローゼットの前に立ったあかりが現れたとき、俺は思わず言葉を失った。
そこにいたのは、完全に“男子”だった。
髪はタイトにまとめられ、シャツの上にベストを着て、スラックス。
だけど目の奥は、俺がずっと知ってる、あかりのままだった。
「どう……変じゃない?」
「……変じゃない。むしろ、すごいなって思う」
俺の声は、少し震えていた。
「私ね、やっとわかったの。男装って、ただ服を真似するだけじゃなくて……自分の中の“かっこよさ”を形にできるっていうか。なんか、気持ちがシャキッとするの」
その言葉に、俺は少し安心した。
あかりは、自分の「好き」をちゃんと見つけたんだって。
でも同時に、焦りもあった。
俺の好きな“あかり”は、どんどん新しい世界へ進んでいく。
その背中を、俺は追いかけられてるだろうか。
「……なぁ、あかり」
「ん?」
「どんな格好でもいいけどさ、お前は、お前なんだよな」
あかりは、ふっと笑ってうなずいた。
その笑顔が、昔と少しも変わっていなかった。