最近のあかりは、どこか変わった。
いや、厳密に言えば――変わったというより、“整った”というほうが近い。
以前は、男装している自分と普段の自分の間で揺れていたような、そんな不安定な表情をよく見せていた。
けれど、今のあかりには迷いがない。
たとえば、服装。
以前は男装の日と女の子らしい服の日が分かれていて、どこか「選んでる」感じがあったけれど、今は違う。
どんな格好でも、その中に“あかり”らしさがある。
ボーイッシュなスタイルの日でも、スカートを履いた日でも、自分を偽っていない自信が滲み出ている。
「最近、何かあったの?」
ある休日、ふたりで並んで歩いていたとき、ふと聞いてみた。
街路樹の影が舗道に落ちて、日差しがちらちらと揺れていた。
「え? なんで?」
あかりは笑って、僕を見上げる。
「うーん、なんか、前より自然というか……吹っ切れた感じがして」
僕はありのままの印象を言葉にした。
「……ふふ、そうかも」
あかりは目を細めて、少し空を見上げた。
「前はね、男装してる時の自分と、女の子らしい自分と、どっちが本当なのか分からなくて……ずっともやもやしてた」
「うん。……知ってる」
あの時の、フードコートでの会話を思い出す。
「でも今は、どっちも“自分”だって思えるようになったの」
あかりの声には、しっかりとした芯があった。
「服装や振る舞いはその時々の表現でしかなくて、根っこにある私は、ずっと私なんだって。……ようやく、そう思えるようになったんだ」
その言葉に、僕は心の中で安堵した。
あかりが悩んでいたことを、近くで見ていたからこそ、今の落ち着いた表情にほっとする。
でも、同時に――ほんの少し、言葉にできない違和感が残った。
変わったことは、いいことのはずだった。
でも、その“変化”がどこか遠くに感じられた。
僕の知らない誰かとの出会いが、彼女にそう思わせたのだとしたら……。
「何か、きっかけがあったの?」
僕は自然を装って聞いた。
「うーん……内緒」
あかりはくすりと笑って、指先を口元に当てる。
冗談っぽい仕草なのに、なぜか心に引っかかる。
その夜、ベッドに寝転びながら考えた。
僕は、あかりの隣にいて、一番近くで支えられる存在でいたいと思ってた。
でも、あかりが強くなって、自信を持って、自分で進んでいく姿を見ると――誇らしい反面、どうしようもなく寂しさも覚えた。
僕の知らない時間、知らない誰か。
その中で成長していくあかりに、置いていかれている気がする。
自分が恋をしている相手が、少しずつ遠くなっていく――そんな感覚。
翌日、学校の昼休みに、あかりが男子に囲まれて笑っているのを見た。
男装したその姿は、どこからどう見ても“かっこよく”て、他の女子たちが憧れの目で見つめている。
あかりはもう、「ただの幼なじみ」じゃなくなっていた。
僕だけが知っているあかりは、どこかに行ってしまったんだろうか。
夕方、一緒に帰ろうと声をかけたとき、あかりは変わらない笑顔で僕に手を振った。
その笑顔に、僕の胸は少し痛んだ。
変わったあかりがまぶしいほど輝いていて、でもその光の中に、僕の居場所があるのか分からなくなっていた。
あかりが自分自身を肯定できたことは、何よりも嬉しい。
でも、そんな彼女の「進化」が、僕には少しだけ――寂しかった。
本当は、誰があかりに変化を与えたのか、聞いてみたい。
その人にどんな想いを抱いているのか、知りたい。
でも、それを聞いたら、もう戻れない気がした。
だから僕は、今日もただ隣を歩くだけだ。
変わっていくあかりの影に、少しずつ追いつけなくなっていくことに気づきながら――。