夕暮れ時、あかりは一人で部屋にいた。
机の上には、書きかけのノートと温くなった紅茶。
窓の外では、橙色の空がゆっくりと夜へと溶けていく。
ふと視線が、姿見へと向かった。
そこには、淡い光に包まれた自分の姿が映っている。
冴香のような艶やかさと、昔の自分の素朴さ——その両方を持つ、自分。
「ねえ、あかり」
耳元で、確かに声がした気がした。
振り返っても誰もいない。
けれど、鏡の中の自分が、ほんの少しだけ唇を上げて笑った。
——もう、境界はない。
あかりは立ち上がり、鏡に向かって微笑み返した。
その表情は、これまでのどれとも違う、揺るぎない自分の顔だった。
夜の帳が降りると同時に、部屋は静寂に包まれる。
その中で、鏡はただ淡く光り続けていた。